
ヤマハが誇る空冷ビッグネイキッドの金字塔、XJRシリーズ。
その中でも特に人気の高いXJR1200とXJR1300は、中古市場で今も多くのライダーを魅了し続けています。
しかし、いざ購入を検討すると、「XJR1200と1300の違いがよくわからない」「そもそもXJR1200とは何なのか?」といった疑問に突き当たる方も多いのではないでしょうか。また、「XJR1200は持病があって壊れやすい」「安い理由が気になる」という声や、「改良されたXJR1300の弱点はどこにあるの?」といった具体的な不安も耳にします。
さらに、XJR1300とXJR1300Cの違いは何なのか、XJR1300の中古価格は値上がりしているのかといった市場動向、そして「XJR1200に1300のエンジンを載せられる?」というカスタムに関する興味まで、知りたいことは尽きません。
この記事では、そうした全ての疑問に答えるべく、両モデルのスペックから弱点、中古選びの注意点まで、あらゆる角度から徹底的に比較解説します。
- XJR1200が安価な理由と特有の弱点
- XJR1300への進化点と選び方のポイント
- 両モデルの中古車購入時に確認すべきこと
- カスタムや維持に関する具体的な情報
基本から知るXJR1200と1300の違い
- そもそもXJR1200とは何?
- XJR1200が持つ特有の安い理由
- 知っておきたいXJR1200の持病
- スタータークラッチは本当に壊れやすい?
- XJR1200に1300のエンジンは載るのか?
そもそもXJR1200とは何?

XJR1200とは、ヤマハが1994年に発売した、空冷4ストロークDOHC4バルブ並列4気筒エンジンを搭載した大型ネイキッドバイクです。当時、国内のネイキッドモデルとしては最大級の排気量を誇り、大きな話題となりました。
このバイクの心臓部である1,188ccのエンジンは、もともとツアラーモデルであった「FJ1200」のものをベースにしています。それを日本の道路事情に合わせて、特に低中速域のトルクが豊かになるように再設計されました。最高出力は97馬力を発揮し、そのパワフルな走りは多くのライダーを虜にしました。
XJR1200の魅力はエンジンだけではありません。足回りには、当時としては非常に豪華なパーツが標準で装備されていました。リアサスペンションには世界的に有名なオーリンズ製を採用し、1995年モデル以降のフロントブレーキにはブレンボ製のキャリパーが奢られるなど、走りに対するヤマハのこだわりが強く感じられます。
また、「ヒューマノニクス」という、数値化しにくい「乗り味」や「感性」を重視した独自の開発手法が取り入れられているのも大きな特徴です。これにより、ただ速いだけでなく、ライダーが「操る楽しさ」を実感できる、味わい深いバイクに仕上がっています。
XJR1200が持つ特有の安い理由

中古バイク市場において、XJR1200が後継モデルのXJR1300や同クラスのライバル車と比較して安価に取引されているのには、いくつかの明確な理由が存在します。
最大の理由は、モデルとしての古さと後継機であるXJR1300の存在です。XJR1200は1994年から1998年まで生産されたモデルであり、最終年式からでも25年以上が経過しています。一般的にバイクは年式が古くなるほど価格が下がる傾向にありますが、性能や信頼性が向上したXJR1300が登場したことで、XJR1200の市場価値は相対的に低くなりました。
次に、「スタータークラッチ」という部品に構造的な弱点を抱えていることが広く知られている点も、価格を押し下げる大きな要因です。この弱点はXJR1200の「持病」とも言われ、購入後に修理が必要になる可能性を考慮して、価格が安めに設定される傾向にあります。
その他にも、以下のような要因が挙げられます。
XJR1200が安い主な理由
- 年式の古さ:生産終了から25年以上が経過している。
- 後継機の存在:性能が向上したXJR1300が登場したため。
- 構造的弱点:スタータークラッチの持病が広く知られている。
- 流通量の多さ:中古市場に玉数が多く、希少性が低い。
- 空冷エンジンの特性:水冷が主流の現代において、夏場の熱問題などがマイナス評価に繋がる場合がある。
このように言うとネガティブな印象を持つかもしれませんが、これらの理由は「不人気だから安い」というわけでは必ずしもありません。むしろ、これらの点を理解し、納得した上で購入するのであれば、非常にコストパフォーマンスに優れた大型バイクであると言えるでしょう。
知っておきたいXJR1200の持病

XJR1200を語る上で避けて通れないのが、「スタータークラッチ(ワンウェイクラッチ)」の持病です。これはXJR1200最大の弱点として広く知られており、購入を検討する際には必ず理解しておくべき重要なポイントになります。
スタータークラッチは、セルモーターの回転をクランクシャフトに伝達し、エンジンを始動させるための重要な部品です。しかし、XJR1200に搭載されているものは設計上の問題から耐久性が低く、経年劣化によって高い確率で不具合を発生させます。
この持病が発症すると、以下のような症状が現れます。
スタータークラッチ劣化の典型的な症状
セルボタンを押してもエンジンがかからず、「ガガガッ!」というギアが噛み合わないような大きな音や、「クーン、クーン…」とセルモーターだけが空回りする音が聞こえます。
この症状は、エンジンが冷えている冬場の朝一などに特に発生しやすく、悪化すると完全にエンジンが始動できなくなるケースもあります。
この問題の厄介な点は、修理が大掛かりになることです。スタータークラッチはエンジンの内部、クランクケースの中にあるため、交換するにはエンジンを車体から降ろし、腰下を分解(クランクケースを割る)する作業が必要になります。そのため、専門のバイクショップに依頼すると、工賃だけでもかなりの高額になる可能性があります。
この持病があるからこそXJR1200は安価であるとも言えますが、購入時にはこのリスクを十分に理解しておくことが不可欠です。
スタータークラッチは本当に壊れやすい?

「持病と聞くけど、本当にそんなに壊れやすいの?」と疑問に思う方もいるかもしれません。結論から言うと、はい、残念ながら壊れやすいと言わざるを得ません。これは特定の個体だけの問題ではなく、XJR1200というモデルが構造的に抱える弱点です。
もちろん、全ての車両がすぐに故障するわけではありませんが、生産から長い年月が経過した現在、多くの個体でこの問題が発生、あるいは発生する可能性があります。特に、前オーナーの乗り方やメンテナンス状況によっては、劣化が進行しているケースも少なくありません。
しかし、適切な対策と予防策を知っておけば、過度に恐れる必要はありません。
修理・対策方法
最も根本的な解決策は、スタータークラッチの交換です。その際、単純に同じ部品に交換するのではなく、対策品であるXJR1300用の強化されたスタータークラッチを流用するのが一般的です。これにより、再発のリスクを大幅に低減させることができます。

多くのXJR1200オーナーがこの1300用部品への換装を行っています。もし中古車で「スタータークラッチ交換済み」という車両があれば、どの部品に交換したのかを確認すると、より安心して購入できるでしょう。
予防策と購入時のチェックポイント
中古車を購入する際は、必ずエンジンが完全に冷えた状態(冷間時)でセルを回させてもらいましょう。エンジンが温まっていると症状が出にくい場合があるためです。始動時に異音がないか、スムーズにエンジンがかかるかを自分の耳と目でしっかりと確認することが重要です。できれば、厳しい条件下でチェックできる冬場に購入するのが理想的と言えます。
また、万が一の際の対処法として「押しがけ」を覚えておくのも有効です。スタータークラッチが機能しなくても、押しがけであればエンジンを始動できる場合が多いからです。ただし、これはあくまで緊急避難的な方法に過ぎません。
XJR1200に1300のエンジンは載るのか?


はい、XJR1200の車体にXJR1300のエンジンを搭載することは可能です。これは定番のカスタムメニューの一つとして、古くから行われてきました。
エンジンマウントの位置などが共通であるため、比較的大きな加工を必要とせずに換装することができます。これにより、単なる修理を超えたメリットを得ることが可能です。
エンジン換装のメリット
- パワーアップ:排気量が1,188ccから1,250ccにアップし、馬力やトルクが向上します。
- 信頼性向上:最大の懸念点であったスタータークラッチの問題が根本的に解決されます。
- フィーリングの変化:より洗練されたエンジンフィールを味わうことができます。
お疲れ気味の1200エンジンをオーバーホールする代わりに、程度の良い1300の中古エンジンに載せ替える、あるいはオーバーホール済みの1300エンジンを搭載するという選択は、非常に合理的と言えるでしょう。
注意点:構造変更手続きが必須
エンジンを載せ替えた場合、排気量やエンジン型式が変わるため、必ず運輸支局で「構造変更検査」を受ける必要があります。この手続きを行わないと違法改造となり、車検に通らないだけでなく、万が一の事故の際に保険が適用されない可能性もあります。
近年、この構造変更の手続きは厳格化されている傾向にあり、個人で行うのはハードルが高いのが実情です。エンジン換装を検討する場合は、構造変更手続きまで含めて、責任を持って引き受けてくれる信頼できるショップに依頼するようにしてください。
購入で失敗しないXJR1200と1300の違い
- 改良されたXJR1300の弱点はどこ?
- XJR1300とXJR1300Cの違いは何?
- XJR1300の中古価格は値上がり傾向?
- 中古で買う際の注意点を解説
- まとめ:後悔しないXJR1200と1300の違い
改良されたXJR1300の弱点はどこ?


XJR1300は、XJR1200の弱点を克服し、全面的に性能を向上させた後継モデルです。そのため、1200で指摘されたような明確な「弱点」は大幅に改善されています。
前述の通り、最大の懸案だったスタータークラッチは設計が見直され、信頼性が格段に向上しました。しかし、完璧なバイクというわけではなく、XJR1300ならではの特性や、人によっては「弱点」と感じるかもしれないポイントも存在します。
それは主に、空冷エンジン特有の性質に起因するものです。
- 夏場の熱問題:空冷エンジンであるため、特に夏場の渋滞路などではエンジンからの熱がライダーに直接伝わり、かなりの熱さを感じます。これはXJRシリーズ共通の宿命とも言えます。
- 燃費:大排気量のキャブレター車(初期〜中期モデル)であるため、燃費は決して良いとは言えません。ツーリングでは15km/L前後、街乗りでは10km/L前後になることもあります。2007年以降のインジェクション(FI)モデルでは多少改善されています。
- 車重:乾燥重量で230kg前後、装備重量では245kgにもなり、取り回しにはそれなりの腕力と慣れが必要です。
これらの点は、弱点というよりも「大排気量空冷バイクならではの個性」と捉えるべきかもしれません。XJR1200から乗り換えた場合、これらの点が劇的に改善されているわけではないことは理解しておく必要があります。
スペック比較:XJR1200 vs XJR1300(初期型)
項目 | XJR1200 (’96) | XJR1300 (’98) |
---|---|---|
総排気量 | 1,188cc | 1,250cc |
最高出力 | 97PS / 8,000rpm | 100PS / 8,000rpm |
最大トルク | 9.3kg-m / 6,000rpm | 10.0kg-m / 6,000rpm |
乾燥重量 | 232kg | 230kg |
フロントタイヤ | 130/70ZR17 | 120/70ZR17 |
リアタイヤ | 170/60ZR17 | 180/55ZR17 |
XJR1300では排気量アップに伴い出力が向上しているだけでなく、タイヤサイズがより現代的なサイズに変更され、ハンドリングの軽快さが増している点も大きな違いです。
XJR1300とXJR1300Cの違いは何?


XJR1300を調べていると、稀に「XJR1300C」というモデル名を見かけることがあります。これは、標準のXJR1300とは異なる特徴を持つ派生モデルです。
結論から言うと、XJR1300Cはヨーロッパ市場向けに2015年に登場した、カフェレーサースタイルのカスタムモデルです。「C」は「Cafe Racer」を意味していると言われています。
標準モデルとの主な違いは、そのデザインとスタイリングにあります。
XJR1300Cの主な特徴
- シングルシート風のシートカウル
- セパレートハンドル、または低めのバーハンドル
- カーボン製のショートフロントフェンダーやヘッドライトカウル
- ブラックアウトされたエンジンやマフラー
- サイドゼッケンプレート風のデザイン
このように、よりスポーティでレトロな雰囲気を強調したデザインが特徴です。基本的なエンジンやフレームは標準のXJR1300と共通ですが、ライディングポジションはより前傾姿勢になります。
注意:国内では正規販売されていない
XJR1300Cはヨーロッパ向けのモデルであり、日本では正規に販売されていませんでした。そのため、日本国内で見かける車両は、並行輸入されたものがほとんどです。購入やメンテナンスの際には、部品の供給や対応してくれるショップについて、事前に確認しておく必要があるでしょう。
XJR1300の中古価格は値上がり傾向?


はい、その通りです。XJR1300の中古車価格は、近年、特に状態の良い個体を中心に値上がり傾向にあります。
この背景にはいくつかの理由が考えられます。
- 生産終了による希少価値の上昇
XJR1300は2017年モデルを最後に生産を終了しました。これにより、ヤマハのラインナップから伝統的な空冷4気筒ビッグネイキッドが消滅したことになり、最後のモデルとしての希少価値が高まっています。 - 旧車・ネオクラシックバイクブーム
近年のバイク市場では、90年代から2000年代にかけてのバイク、いわゆる「ネオクラシック」の人気が非常に高まっています。XJR1300はその中心的なモデルの一つであり、需要の増加が価格を押し上げています。 - インジェクション(FI)モデルの存在
2007年以降のFIモデルは、始動性の良さや環境性能への適合から特に人気が高く、高値で取引される傾向にあります。キャブレター車にはない扱いやすさが、幅広い層に支持されています。
2024年現在の相場観としては、年式や状態にもよりますが、安い個体でも50万円前後から、走行距離の少ない高年式の美車になると150万円を超える価格で取引されることも珍しくありません。XJR1200と比較すると、価格帯は数十万円以上高くなっています。
今後もこの傾向は続くと予想されるため、購入を検討している方は、良い個体を見つけたら早めに決断する必要があるかもしれません。
中古で買う際の注意点を解説


XJR1200もXJR1300も、生産終了から年月が経過しているため、中古車選びは慎重に行う必要があります。価格の安さだけで飛びつくと、後から高額な修理費用がかかってしまう「安物買いの銭失い」になりかねません。購入時にチェックすべきポイントを解説します。
XJR1200で特に注意すべき点
最重要チェックポイントは、やはりスタータークラッチです。前述の通り、必ずエンジンが冷え切った状態で始動確認をしてください。始動時に「ガガガ」といった異音や空回りの症状が出ないか、自分の耳でしっかり確認しましょう。もし販売店が暖機後の始動確認しかさせない場合は、何かを隠している可能性も疑うべきです。また、メンテナンス履歴を確認し、クラッチが対策品に交換されているかどうかも重要な判断材料になります。
XJR1300で特に注意すべき点
XJR1300は大きな弱点こそ少ないものの、年式によって仕様が異なります。特にキャブレターモデルかインジェクション(FI)モデルかは大きな違いです。自分の好みや使い方に合わせて選びましょう。また、初期モデルは発売から25年以上経過しているため、1200と同様に各部の劣化具合をしっかり確認する必要があります。
両モデル共通のチェックリスト
- 転倒歴の確認:ハンドルのストッパー、ステップ、レバー、マフラー、エンジンカバーなどに大きな傷がないか。フレームに歪みがないか。
- オイル漏れの確認:エンジン周り(特にヘッドカバーやシリンダーベース)、フロントフォーク、リアサスペンションからのオイル漏れや滲みがないか。
- サスペンションの状態:前後のサスペンションがスムーズに動くか。特にリアのオーリンズはオーバーホールに費用がかかるため、オイル漏れやロッドの錆は要チェック。
- 電装系の動作確認:ヘッドライト、ウインカー、ホーンなど全ての電装系が正常に作動するか。
- メンテナンス履歴:定期的なオイル交換や部品交換の記録が残っている車両は信頼性が高いです。
何よりも、信頼できるバイク販売店から、できれば保証付きで購入することが、最も確実な失敗しない方法です。
まとめ:後悔しないXJR1200と1300の違い
最後に、この記事で解説してきたXJR1200とXJR1300の違いと選び方のポイントをまとめます。どちらのモデルを選ぶか、最終判断の参考にしてください。
- XJR1200は1994年に登場したヤマハ初の空冷リッターネイキッド
- 1200が安い主な理由は年式の古さと後継機1300の存在
- 1200最大の弱点はスタータークラッチの持病で修理は高額
- 購入時は冷間時のエンジン始動でスタータークラッチの異音を確認することが必須
- 対策として1300用の強化スタータークラッチへの交換が有効
- XJR1300は1998年に登場した1200の正常進化モデル
- 1300は排気量を1250ccに拡大しパワーとトルクが向上
- 1300ではスタータークラッチの弱点が根本的に対策済み
- 空冷エンジン特有の夏場の熱問題は両モデル共通の特性
- 1300はタイヤサイズが現代的になりハンドリングが軽快に
- 2007年以降の1300は始動性に優れるインジェクション(FI)を採用
- XJR1300Cは欧州向けのカフェレーサー仕様で国内では希少
- 1200の車体に1300のエンジンを載せることは可能だが構造変更が必要
- XJR1300の中古価格は生産終了により近年値上がり傾向にある
- 中古車選びでは価格だけでなく車両の状態とメンテナンス履歴が最も重要